インボイス発行事業者になるために課税事業者を選択した、現在、免税事業者のフリーランスの方を対象にお伝えします。
特に、現在、所得税の確定申告書の作成を税理士さんに依頼せず、ご自身で行っている方が、消費税の申告を自分でやってみたい、という方向けの記事となっています。
- 本記事は、免税事業者がインボイス導入をきっかけに課税事業者を選択した場合の『2割特例』を利用したケースでのお話です。
- 業態によっては『2割特例』を利用しない方が有利な場合もあります。
- そのため典型的なケースとして『サービス業』を前提としたお話としています。
- 詳細は、下記の記事をご参照下さい。
ご興味がある方は、以下の記事をご参照下さい。
1. 消費税の課税事業者の対応項目と対応順序
免税事業者からインボイス発行事業者となった場合の手続き、対応は以下のようになります。
- インボイス発行事業者の登録申請手続き
- インボイスの発行準備
- 『課税売上高』の年間合計の集計
- 消費税の申告書の作成
- 年間消費税の納税
各手続き、対応については、3章以降で詳しく解説します。
細かなお話よりも実際の作業が知りたい方は3章にジャンプしてください。
特に『消費税の申告書の作成実務』について知りたい方は、3-4. 消費税の申告書の作成にジャンプしてください。
2. 作業の意味を簡単に解説
手続き・対応を確認する前に、まずは消費税の申告ロジックを簡単に紹介します。
理解すると、何をすべきかの概要が見えてきて、具体的な手続きや作業の理解に役立ちます。
2-1. 消費税の申告ロジックを簡単に解説
- 〔申告時期〕年1回:3月末日が申告期限となります。
- 〔申告対象期間〕1月~12月分の1年分
- 〔申告方法〕
- 『消費税確定申告書』一式を紙により提出(郵送・持参)
- 『e-Tax』という国税庁の電子申告システムで電子的に申告
※なお、2023年7月9日現在、令和5年分の申告書は国税庁ホームページでも『準備中』となっております。
- 〔消費税率〕10%
※但し、実際の消費税率は、以下のようになっています。
『国税の消費税率:7.8%』+『地方消費税率:2.2%』=10%
クリックすると4ページの国税庁の詳細な資料を見ることができます。
2-2. 『2割特例』の申告ロジックはいたって単純
大まかな計算ロジックは、以下の通りです。
『納税額』=『売上の消費税額』×20%
={『課税売上高』×10%}×20%
ただし、税率のところで触れた通り、『国税の消費税』と地方に配分される『地方消費税』の2つに区分されています。
計算ロジックは、以下のようになっています。
②『地方消費税の納税額』を計算する
③『納税額合計』=①+②
具体的には、以下のようになります。
②『地方消費税納税額』=『(国の)消費税納税額』×22/78
(「地方消費の税率」が「国税の税率」の22/78だから)
③『納税額合計』=①+②
※『2割特例』について詳しく知りたい方は以下の記事をご参照ください
2-3. 所得税の確定申告書の売上項目を『消費税申告書』に転記すれば出来上がり
毎年作成している『所得税・確定申告書』の以下の赤枠線部分の金額を国税庁のホームページにあるクラウドの計算ソフトに転記するだけです。
3. 『インボイス発行事業者』の実際の作業
3-1. インボイス発行事業者の登録申請手続き
インボイス発行事業者になるには、国税への『適格請求書発行事業者の登録申請手続』が必要です。
『適格請求書』=『インボイス』です。
国税庁のホームページに詳しく手続きについて記載されています。
税務署が導入している『e-Tax』という電子システムで行うか、郵送により申請書を提出することになります。
『免税事業者』を選択しないと、有利な『2割特例』を受けることができなくなってしまいます。
※最新版はこちらのページで内容をご確認ください。
事務手続き効率化の観点から税務署では『e-Tax』一押しのリーフレットに詳しく書かれています。
なお、登録申請してから登録番号などの通知には時間がかかるようです。
e-Taxで約1ヶ月半、書面提出で約3ヶ月かかるようです。
(2023年6月現在)
10月から適用開始して登録番号を記載した請求書を発行しなければならないのであれば、早めに提出することが望ましいですし、ギリギリになるようでしたら、e-Taxでの申請が無難かもしれません。
なお、『いつから登録を受けたいか?』により記載方法などが違うので、フローチャートで良く確認しましょう。
記載事項は、国税庁の『公表サイト』で公表されます。
『主たる屋号』や『主たる事務所の所在地等』については、個人情報との兼ね合いもありますので、下記の記事をご参考にしてください。
3-2. インボイスの発行準備
インボイス(適格請求書)には、要件があります。
適格請求書記載事項は国税庁発信のPDFで具体的に説明しています。
- 相手先名称
- 発行日付
- 販売日・サービス提供日
- 販売品目・サービス内容
- 税抜き金額
- 税率ごとの税抜き金額と消費税額
- 発行者の登録番号と氏名又は屋号
以下は記載例の抜粋です。
詳細をこちらのページで確認しましょう。
ソフトウエア会社からは【インボイス対応請求書のご準備は大丈夫ですか?】といったセールストークに触れることもあるかもしれません。
でも、今までエクセルで請求書を発行しているのであれば、必要な項目を追加すればいいです。
税率ごとの区分表示も食品関連の販売をしている事業者さん以外は、おそらく必要ないでしょう。
なぜなら、発行する請求書に複数の税率が混在する業種は限られているからです。
一番大切なのは、登録番号を追記することです。
委託元指定フォーマットで請求書を作成しているケースでは、インボイス制度適用フォーマットを事前にもらっておけば良いでしょう。
また、自分で請求書を発行したことがないという方は、この機会に請求書を発行するように変えれば良いと思います。
3-3. 『課税売上高』の年間合計の集計
消費税の申告書で使用するのは『売上高』ではなく、『課税売上高』となります。
先ほど図でも紹介した『所得税の確定申告』の(ア)『収入金額等』『事業』『営業等』欄の金額は『事業の売上高』ですから、ほとんどの方は、消費税計算でもそのままの金額を使えます。
つまり、ほとんどの方は『売上高』=『課税売上高』です。
- 『課税売上』…以下を除く、「国内で」「対価を得て」行う「販売やサービス提供」に関する売上は課税売上高となります。
- 『課税対象外売上』…国外で行う取引(輸出ではなく、国外で取引する場合です)
- 『非課税売上』…土地の売買、土地の貸付、住宅の貸付(1ケ月未満の貸付は課税売上)
- 『輸出免税売上』…海外向けの販売、サービス提供
※海外の拠点で商品販売した場合は国外取引、海外の顧客に日本から発送して販売した場合は輸出免税取引
ご自分の事業で、課税売上高以外の『売上高』が発生しそうな場合は、それぞれの『売上の種類』ごとに数値を把握しておく必要があります。
具体的には、以下の方法で行うのが良いと思います。
②会計ソフトを利用していない場合…エクセル等で月ごとの売上高を集計して、年間合計を出せるようにしておく
※『課税売上高』について詳しく知りたい方は、クリックすると4ページの国税庁の詳細な資料を見ることができます。
3-4. 消費税の申告書の作成
【用意するもの】
『その年の課税売上高の金額』『マイナンバー』
3-4-1. データ入力
◆国税庁ホームページの下記ページから申告書作成ソフトを起動します。
◆以下の画面に切り替わります。
◆【作成開始】をクリックすると以下の画面になります。
【マイナンバーカードをお持ちの方】【お持ちでない方】
⇒『e-Tax』を利用した『電子申告』をする方用
【その他】/【印刷して提出】
⇒『紙による申告』をする方用
基本的に、マイナンバーの有無にかかわらず、『e-Tax』を利用した方が便利です。
ただ、令和5年分の申告用のページはまだ用意されていないので、用意され次第、本ブログで続報をお伝えします。
◆とりあえず、『どんな感じか』を理解するために、
【その他】/【印刷して提出】をクリックすると入力項目を確認できます。
※データ入力をしても「勝手に申告」されてしまうようなこともなく、途中経過までのデータを暫定ダウンロードして保存、続きから入力などもできます。
◆利用環境等を確認後に、『利用規約』を確認します。
◆『利用規約に同意して次へ』をクリック
◆作成する申告書を選びます。
◆令和5年分はまだ用意されていませんので、とりあえず『令和4年分の申告書の作成』右横の『▼』をクリックします。
◆画面がプルダウンで下に出てきますので、『消費税』をクリックします。
◆ポップアップ画面で注意事項が出てきますが、無視して『閉じる』をクリックします。
◆ポップアップ画面が閉じたら、『次へ進む』をクリックします。
◆入力画面では、下記の要領で選択して『次へ進む』をクリックします。
◆下記のポップアップ画面が表示されます。『OK』をクリックします。
◆『□事業所得(営業等)がある。』に☑を入れる。
◆『□第2種事業』に☑を入れると、下の部分が開いてプルダウン表示されるので、『いいえ』をクリックする。
◆『次へ進む』をクリックする。
◆『入力する』をクリックする。
◆『売上(収入)金額(雑収入を含む)』に、令和4年の「税込み」売上高を入力する。
※先ほどの画面で「税込み経理」を選択したため(「税抜き経理」を選択した場合には税抜きの売上高を入力します)
◆下の3項目はすべて『いいえ』をクリックする。
◆『次へ進む』をクリックする。
◆『次へ進む』をクリックする。
◆『次へ進む』をクリックする。
以上を入力し、『次へ進む』をクリックすると、計算結果が画面表示されます。
3-4-2. 計算結果
◆計算結果が表示されます。
◆画面が縦スクロールで長いので、2つの図に分割にして掲載します。
◆納付税額は一番上に緑色で表示された『100,000円』となります。
◆赤枠は『国税の消費税』の計算です。
◆(11)に表示された『納付税額』78,000円が『国税の消費税』の納税額です。
◆(22)に表示された『納付譲渡割額』22,000円が『地方消費税』の納税額です。
◆(26)が『国税と地方税の消費税』を合算した金額で、78,000円+22,000円=100,000円となっています。
◆金額を確認したら、『次へ進む』をクリックします。
『次へ進む』をクリックすると、次は納税方法等を入力する画面に遷移します。
◆画面が縦スクロールで長いので、2つの図に分割にして掲載します。
◆上半分は、『納税方法』を選択する入力項目です。
▼『振替納税』『電子納税』『クレジットカード納付』『スマホアプリ』『コンビニQR納付』『窓口』の6種類から選べます。
◆下半分は、住所等の基礎データを入力する画面です。
◆基礎的な個人データが中心ですので、記載例などを参考に入力していきます。
- 整理番号:税務署から送付された消費税の申告書の原本に整理番号が記載されていますので転記
- マイナンバー(個人番号):これを入力しないと印刷できないので必須入力
◆入力が終わったら『次へ進む』をクリックする。
◆『次へ進む』をクリックするとポップアップ画面が表示されますので、『OK』をクリックします。
◆『届書を作成しない』をクリックして、『次へ進む』をクリックします。
◆とりあえず、初期値はすべての帳票が選択されているので、☑はそのままにして印刷します。
◆『帳票表示・印刷』をクリックします。
◆印刷データがPDFでダウンロードされます。
◆ダウンロードが終わったら、『次へ進む』をクリックします。
◆『次へ進む』をクリックすると、ポップアップ画面が表示されるので、『OK』をクリックします。
◆『入力データを保存する』をクリックします。
◆『入力したデータをダウンロードする』をクリックします。
◆データはダウンロードフォルダに保存されます。後でこのデータから続きを処理することもできます。
◆ダウンロードが完了したら、『前に戻る』をクリックします。
◆確定申告の提出について、内容を確認します。
◆特に提出期限には注意しましょう。
◆納付は自身が入力画面でどの納税方法を選択したかを確認の上、必要な対応をします。
◆アンケートに回答して、『終了する』をクリックして完了です。
3-5. 出力帳票を税務署に郵送または提出
ダウンロードしたPDFデータを印刷すれば、そのまま提出できます。
入力データから、必要な記載事項は網羅された状態で印刷できます。
なお、各書類の『本人控え』も印刷されます。
お手元の保存用とします。
3-6. 納税
申告書作成時に入力した方法での納税の対応をします。
納期限は、3月末です。
但し振替納税だけは、手続きを3月末に済ませればOKです。引き落とし日は4月になってからになります。
3-6-1. 振替納税
指定した預貯金口座からの引き落としになります。
振替依頼書を作成して、申告書と一緒に送付、提出します。
振替日が記載されているので、それまでに納税額以上の口座残高にしておきます。
3-6-2. 電子納税
申告の提出期限の3月末までにe-taxを利用してダイレクト納付します。
3-6-3. クレジットカード納付
「国税クレジットカードお支払サイト」(外部サイト)上で手続きをします。
3-6-4. スマホアプリ納付
申告書等とともに出力されるスマホアプリ納付用QRコードを読み取って、「国税スマートフォン決済専用サイト」(外部サイト)上で手続きをします。
『PayPay』等が可能です。詳しくはこちらまで。
3-6-5. コンビニQR納付
申告書等とともに、コンビニ納付用QRコードを出力し、利用可能なコンビニエンスストアで納付する方法です。
3-6-6. 窓口納付
金融機関又は所轄の税務署の窓口で納付する方法です。
納付書は一部の金融機関及び全国の税務署の窓口に用意されています。
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