『共働き世帯のように子育てをするために世帯収入を上げて努力している家庭』が最もその『割を食う』のではないか?
この記事では高校の授業料の無償化のその趣旨を振り返り、『手厚い子育て世代への支援が目的である』にもかかわらず、何故か子育て世代の高額所得世帯のみにその財源を求めていることへの不公平感について論じています。
1. 共働き世帯の所得制限の判定金額の算出方法は?
高等学校就学支援金の所得制限は「世帯収入」で判定します。
厳密には高校生の扶養する親権者(通常は夫妻)の所得の合算、更に厳密に言うと、夫婦の住民税所得割額という「所得に比例した税金の額」の合算したものをボーダーラインとしています。
尚、所得制限について詳しく知りたい方は以下の記事をご参考にして下さい。
2.『所得制限』でやろうとしていること
簡単に言ってしまえば公立高校よりも高額の授業料を負担しなければならない私立高校へ入学させる子供を持つ家庭にも公立高校と同等の負担で済むように支援金の額を増額すると同時にその増額するための財源を確保するために支援金の対象過程を所得制限するということです。
東京新聞の記事がとてもわかり易く図解入りで説明していますので以下に引用します。
高校無償化見直し案 支援打ち切り2割超
自民、公明両党は21日、高校授業料無償化制度を見直し、今まではなかった所得制限を設けることで合意した。制限額は世帯年収900万円で調整中。所得制限で浮いた財源は、私立高校生がいる中低所得世帯への支援などに振り向ける。
高校生がいて所得制限が適用される世帯は、一人あたり年約12万円負担が増える。実施時期は2014年度を目指すとしたが、自治体の授業料徴収システムの変更に時間がかかり、間に合わない可能性もある。
現行制度は民主党政権の目玉政策として10年度にスタート。原則11万8千8百円の公立高校の年間授業料を徴収せず、国が負担している。
私立高校生には一律で公立と同額の就学支援金を支給。低所得世帯への対策として、世帯年収250万円以下の世帯には2倍、350万円以下の世帯には1.5倍を支援している。予算総額は年間約4千億円。
この制度により、経済的な理由による高校中退者が減るなど一定の効果がみられ「民主党政権の数少ない実績」とも言われた。
しかし、高所得者にも一律支援することに、当時野党だった自民党は「バラマキだ」と批判。所得制限額を世帯年収700万円とする案を提案した。
一方、高校無償化法に賛成した公明党は所得制限に消極的だった。今回の見直し協議では、初めは自公両党の考えに開きがあったが、900万円で歩み寄り、自民党は21日の党文部科学部会で了承。公明党も党内手続きを進める。
文部科学省によると、所得制限を900万円にすると、支援対象の高校生(12年度は約360万人)は全体の77%になる。
浮いた財源を中低所得世帯に振り向ける最大の狙いは、公立と私立の教育費負担の格差を縮めることだ。
私立高校生への就学支援金を新たに加算。年収250万円以下の世帯への支給額を私立高校の年間授業料平均額に近づけ、事実上無償化する。返済義務のない給付型奨学金も新設する。中間所得層の就学支援金も加算する方針で、世帯年収600万円以下を軸に調整を進める。
高校無償化の導入に合わせ、高校生がいる世帯の税制優遇が縮小しているため、所得制限で支援が受けられなくなる世帯は制度導入前より負担が増える。
3. 高校無償化と引き換えに廃止された所得税の優遇『特定扶養控除』
上記の図では今回の見直しで中低所得者層への手厚い支援のための財源が今回の支援打ち切りの高額所得世帯分を振り向けるように見えますが、この財源の話にはその前段がありますので忘れてはいけません。
元々子育て世代の経済的な負担の軽減を目的に所得税には『特定扶養控除』というものがありました。
16歳から22歳という高校生や大学生のいる家庭の扶養者の所得税を軽減するのがその目的でその年代の扶養親族がいれば扶養者の所得税の課税対象から通常の扶養親族よりも割り増しして所得をマイナスできる制度です。
しかし高校無償化が導入されたのと引き換えに廃止された経緯があるのです。
朝日新聞kotobankから説明を引用させて頂きます。
特定扶養控除 【とくていふようこうじょ】
特定扶養親族(扶養親族のうち、その年の12月31日現在の年齢が16歳以上23歳未満の人)に対する所得税・住民税の控除のこと。高校生、大学生などの子どもを持ち、教育費がかさむ世代の税負担の軽減するために創設されたもの。
所得税法第84条で定められた63万円(基礎控除38万円と上乗せ分25万円)、地方税法第34条で定められた45万円(基礎控除33万円と上乗せ分12万円)が、それぞれ控除される。2009年12月22日、民主党・鳩山政権は臨時閣議で決定した2010年度税制改正大綱の中で「特定扶養控除の一部廃止」を明記した。民主党の選挙公約の一つである「公立高校無償化」(高校生を扶養する世帯に一律11万8千800円を給付する制度)の財源にあてるためである。
具体的には、特定扶養親族の中で、高校生にあたる年齢の16歳から19歳未満の人の扶養控除分のうち、所得税の上乗せ分25万円と住民税の上乗せ分12万円を廃止し、特定扶養控除額を所得税38万円、住民税33万円とする。19歳以上23歳未満の人の特定扶養控除は、現行通りとした。「所得控除から手当へ」と、国民への所得再配分機能を高めていくために、今後も成年扶養控除見直しなどの抜本的な税制改革に取り組む方針の民主党政権だが、「特定扶養控除の維持」も政権公約であったため、特定扶養控除全体の見直しは来年度以降に先送りされた。
高校無償化の給付は10年から始まるが、税制の実務上、所得税の特定扶養控除の減額は11年1月、住民税の特定扶養控除の減額は12年6月より適用される。なお、文部科学省の試算によると、3人家族をモデルケースにして、16~18歳の特定扶養控除上乗せ分廃止の増税分と「高校無償化」による11万8千800円の給付を差し引き計算すると、年収250万円世帯への実質支援額は9万4千300円。年収800万円世帯では半額の5万6千800円。年収1千800万円世帯では2万4千300円と、5分の1になる。「すべての所得層で高校無償化の恩恵が目減りする」と今後論議を呼びそうだ。
4.『高校無償化』前から比較して増税となる子育て世代の『高額所得者』
この2つの引用の内容で最初の高校授業料無償化及び法改正に伴う中低所得者層への更に手厚い支援が『子育て世代の負担』により確保されていることがある程度理解できるかと思います。
高額所得者から低中所得者層の子育て支援のための財源捻出が目的でしたら子育て世代の高額所得者のみをターゲットにせず『すべての高額所得者』から財源捻出のための増税をすれば良いのにターゲットは『子育て世帯』に限定しているのです。
一旦廃止した所得税の控除について今回対象から外れた世帯に対して元に戻したうえで、単純に所得階層別の所得税率を引き上げることによって財源を確保する方法の方が、より高所得者層から広く薄く財源確保ができるはずです。
何故、子育て世代だけにこの支援金の財源の負担をさせているのかがよくわかりません。
『同世代の支援は同世代が賄え!』
とでも言いたいのでしょうか?
そんなことを言ったら若年層は
『だったら高齢者の年金なんか自分たちの世代でどうにかしろ!』
って言い出しかねません。
『高額所得者を冷遇』すれば『低中所得者』の理解を得られやすい、という安易な発想がその陰に見え隠れしているように思います。
5. 共働き世帯は経済的に冷遇されることになる?
世帯収入という枠組みなので共働きで努力して沢山のお子さんを育てている世帯などは直撃もいいところです。
扶養している子どもの人数など考慮すべき点も多いです。
我が家は専業主婦なのでまだ良いですが、苦労して共働きをして沢山の次代を担う子供を育てた挙句、「他の家計を助けるから税金を余計によこせ」などと言われたら待機児童問題などを潜り抜け何とかやってきたママさんサラリーマンは浮かばれない気がします。
教育費をやりくりして捻出している家庭にとっては死活問題です。
特にこのボーダーラインを超えてしまうと1円も援助が受けられないことになってしまうので、前回の子ども手当支給(手当の増額)に伴う所得税の扶養控除の廃止、高校授業料無償化に伴う特定扶養控除の廃止により子育て世代なのになぜか実質増税の憂き目にあってしまうという、何ともおかしな構造です。
6. 株で儲けても所得制限には引っかからない?
場合によっては共働きで汗水たらしてやっと910万円を稼いだ家庭が補助金の対象外になって過去の増税をもろにかぶった反面、株式の配当収入で悠々自適に暮らす家庭にはしっかりと手厚い支援が入金される、そんなこともあるかもしれません。
上場株式の配当収入は源泉分離課税をされるので確定申告しない方法も選択できるので、1億円の株式などの金融資産がある様な家庭ではこんなことが起きかねない、ということです。
まぁ、実際には収入も多いでしょうから対象外になる人がほとんどなんでしょうが…
ちょっと、持たざる者のひがみ根性に聞こえちゃいますかね…(^_^;)
7. 所得制限にかかりそうな場合には検討の余地のある「ふるさと納税」
「理不尽だ!」ということで、ボーダーライン近辺の所得のある共働き世帯の方はこんな記事も参考にしてみて下さい。
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