今回は、副業をしている方が、インボイス制度について確認しておきたいことをお伝えします。
1. 『誰に』販売しているかを確認する
副業の『販売先』が、『誰なのか?』を確認します。
インボイス制度で改正されたのは、『モノを仕入れたり、外注したりした場合』についての部分です。
ですから、販売先・委託元が、インボイス制度で影響を受けるのかどうかにより、モノを販売したり、仕事を請け負ったりする人に影響があるかどうかが変わります。
インボイス制度について詳しくは下記記事をご参照下さい。
1-1. 販売先が『消費者』の場合
もし、副業の販売先・サービスの提供先が『個人』の消費者であれば、インボイス制度の前後で何も変わりません。
例えば、『メルカリ』で不用品を一般消費者向けに販売しているとか、『ココナラ』などのサイトでイラストとか自作の音楽を個人向けに販売している場合には、特に影響がありません。
1-2. 販売先が『事業者』の場合
事業者とは、『仕事』として、発注、購入をしている相手です。
会社などの『法人』はすべて事業者ですが、個人であっても個人事業主として仕事としているケースもあります。
販売先が『事業者』なら、以下の観点で分類して自分の副業に影響があるかどうかを検討します。
1-2-1. 『消費税の課税事業者』かどうか
特定のお客様だけに販売していて、その相手先が『消費税の課税事業者』かどうかで別れます。
インボイス制度導入前は、年間売上高が1千万円以下の事業者であれば、特殊な状況でない限り、ほぼ免税事業者です。
しかしながら、インボイス制度導入で売上規模が小さくても、あえて『課税事業者』を選択することもあります。
もし、『課税事業者ではない』、つまり『免税事業者』であれば、『販売先が一般消費者の場合』と同様、インボイス制度導入による影響はありません。
1-2-2. 小規模事業者かどうか?
販売先が『課税事業者』だった場合でも、『小規模事業者』であれば、影響がないことがほとんどです。
年間売上高が5千万円以下の事業者は、『簡易課税制度』という小規模事業者だけに認められる特例を適用することが可能です。
消費税の申告事務が簡単なのと、大抵は納税額が有利となるため、この特例を利用します。
まれに『特例を適用すると納税額が不利になる』事業者もいますので、確認は必要かもしれません。
明らかに年間売上高が5千万円を超えるような取引先があれば、インボイス制度導入による影響があります。
ここまでを整理すると以下のようになります。
- 一般消費者
- 免税事業者
- 簡易課税制度適用事業者
2. インボイス制度導入で何が起きる?
副業でインボイス制度導入への影響は、上記のような影響のない顧客以外の既存のお客様からの以下の2点の恐れです。
- 値引きされる恐れがある
- 取引を敬遠されてしまう
インボイス制度の導入で、『インボイス発行事業者』以外からの『仕入れ』の消費税相当分は、発注者が負担することになるからです。
厳密には、特例により『今まで負担しなくて良かった仕入れ先へ支払っていた消費税相当分』の特例が廃止されて、その分を負担しなければならなくなった、ということです。
『副業』の免税事業者からの仕入れでは、不利になるということです。
ですから、発注者、購入者がこの『法律改正による不利な点に対してどう対処するのか?』が重要となります。
2-1. 影響するのは購入者・発注元
わかりやすく、例を挙げて説明しましょう。
【発注種別】動画編集の外注
【発注内容】10分の動画を1本につき、税込み3,300円
ある動画ディレクションをする会社(消費税の課税事業者)から、上記のようなパターンで発注を受けている動画編集の副業をしているケースです。
(発注元が会社でなく、個人でも事業者であれば同様です)
仮に、この会社は、発注元から税込み11,000円で受注していたとします。
以下のようになります。
- 販売価格
11,000円(税込み) - 外注費
3,300円(税込み) - 利益
10,000円-3,000円=7,000円 - 消費税納税額
1,000円-300円=700円 - 手元に残るお金
11,000円-3,300円-700円=7,000円
- 販売価格
11,000円(税込み) - 外注費
3,300円(税込み) - 利益
10,000円-3,300円=6,700円 - 消費税納税額
1,000円-0円=1,000円 - 手元に残るお金
11,000円-3,300円-1,000円=6,700円
※所得税等の他の税金はいったん無視しています
上記のように、動画編集1件につき、手取りが300円減少します。
つまり、『何も手を打たなければ300円手取りが減少』します。
例えば、年間1億円の売上がある会社で、すべてを免税事業者から仕入れている(外注している)のであれば、年間300万円の影響(売上の6%の手取りが減少)があるということになります。
仕入先(外注先)の半分が免税事業者なら150万円、1/10なら30万円ということになります。
2-2. 購入者・発注元はどのような対処をするのか?
発注者が、この『手取り減少』に対して考えられる対処法は以下の3点です。
- 手取り減少を甘んじて受け入れる
- 発注元に値上げを要請する
- 免税事業者の仕入れ先を選別する
副業をしている『免税事業者』にとって、上記の(1)(2)は影響ありません。
しかし、(3)を選択された場合には、大きく影響することになります。
では、どのような『仕入れ先の選別』が行われると予想されますでしょうか?
2-3. 仕入れ先の選別
考えられる『仕入れ先の選別』とは以下の2つです。
- 免税事業者から仕入れをしない
- 免税事業者から仕入れる場合は、従来と手取りが変わらない販売単価の値下げ要請を受け入れてくれる人とだけお付き合いする
発注者が、『インボイス発行をしないなら値下げをしないと、取引を中止する』というようなことを一方的に通告することは、独占禁止法上、または、下請法上、問題になると言われています。
しかしながら、外注先を決める際の『価格』は重要な要素です。
依頼時の値決め交渉の中でそうしたことが起きるのであれば、商慣行としては一律に禁止できるかどうかは微妙です。
値引き要請は法律上のリスクを伴うので、通告などせずに『ひっそりと』仕入れ先から除外される恐れも懸念されています。
3. 副業している方が『しておいた方が良いこと』
では、このような状況で、インボイス導入で影響を受ける顧客を取引先に持つ副業をされている方はどうしておくと良いのでしょうか?
それは、『状況を把握』して、『方針を決めて』おくことでしょう。
3-1. 値引きするとしたらいくらなの?
先ほどの事例の単価@3,300円の動画編集の仕事は、いくらなら発注者は『従来と同じ手取り』を実現できるのでしょうか?
インボイス制度導入前の発注者の手取りは、7,000円でした。
ですから、税込み3,300円で発注していたものを税込み3,000円で発注すれば、発注元は損得勘定に影響はありません。
これは、発注者の『負担増』『手取りの減少』を受注側が丸々負担することになり、副業している側からすれば、10%の売上減少となります。
(厳密には、300円/3,300円=9.09%減)
3-1-1. 経過措置があるので、当面は影響が大きくない
実は、インボイス制度導入による影響を弾力化するための経過措置があります。
令和5年10月1日から令和8年9月30日までの3年間は、インボイス発行ができない事業者から仕入れても『消費税相当の80%までは』消費税を引いて納税できる、という経過措置です。(控除率:80%の経過措置)
先ほどの事例で確認してみましょう。
- 販売価格
11,000円(税込み) - 外注費
3,300円(税込み) - 利益
10,000円-3,000円=7,000円 - 消費税納税額
1,000円-300円=700円 - 手元に残るお金
11,000円-3,300円-700円
=7,000円
- 販売価格
11,000円(税込み) - 外注費
3,300円(税込み) - 利益
10,000円-3,060円=6,940円 - 消費税納税額
1,000円-240円=760円 - 手元に残るお金
11,000円-3,300円-760円
=6,940円
※所得税等の他の税金はいったん無視しています
免税事業者である副業の方に、従来通りの発注額『税込み3,300円』で発注した場合、経過措置の期間中は、発注者の手取りが60円ほど減少します。
手取りが従来と変わらず『7,000円』を維持するには、連立方程式を解けば求めることができます。
税込み3,300円 ⇒ 税込み3,235円
つまり、税込みで65円の値引きをすれば、発注者側は損しません。
【値引き率】は、65円/3,300円=1.97% となります。
先ほどの例に当てはめて検証してみましょう。
- 販売価格
11,000円(税込み) - 外注費
3,300円(税込み) - 利益
10,000円-3,060円=6,940円 - 消費税納税額
1,000円-240円=760円 - 手元に残るお金
11,000円-3,300円-760円
=6,940円
- 販売価格
11,000円(税込み) - 外注費
3,235円(税込み) - 利益
10,000円-3,000円=7,000円 - 消費税納税額
1,000円–236円=765円 - 手元に残るお金
11,000円-3,235円–765円
=7,000円
※端数処理が1円単位で発生
ちなみに、この『経過措置』は、最初の3年間が80%の控除率で、その後の3年間は50%となります。
当面は、従来、3,300円を3,000円で値引き販売しないと発注者が損をする、というようなことはありません。
整理すると、以下のようになります。
- 従来の単価
税込み@3,300円 - 令和8年9月30日まで
税込み@3,235円(値下げ率:約2%) - 令和8年9月30日まで
税込み@3,142円(値下げ率:約5%)
3-2. それを踏まえてどうするか?
これまで、説明してきた内容を踏まえてどうするかを方針を検討しましょう。
まずは、顧客の構成を考えます。
消費者や免税事業者などのインボイス制度と無関係な顧客、そうでない顧客、判断がつかない顧客が、自分の副業でどのような構成になっているかを考えます。
無視できないほど、インボイス制度の影響がありそうなら、以下のようなステップを踏んではどうでしょうか?
- 値引きの影響を考慮して、値引き方針を立てる
- 主要顧客と今後の値決めについて早めに交渉しておく
- 請求書発行の再確認
3-2-1. 値引き方針
金額についてだったら、『値引きは一切しない』、『当面の3年間は3,300円を3,235円は値引きする』、『消費税分の損失は両者折半で3,267円にしてもらう』、いろいろな方針があると思います。
方法についても、『こちらからは値引きは一切言い出さない』、『言われたときには値引きするけど金額はいくらまで』。
いろいろとあると思いますが、あらかじめ決めておくと話が早いです。
都度都度、考えていると決断に時間がかかったり、ストレスになったり、メリットはないかと思います。
あらかじめ方針を決めて粛々とその方針に従って行動した方がメリットがあるでしょう。
3-2-2. 主要顧客への対応
主要顧客が大半の売上を占めるなら、あらかじめ話し合いをしておくと良いように思います。
経過措置を加味すると、大幅な値下げをしなくても、販売先・委託元は従来通りの手取り額を確保できますが、経理処理は多少煩雑になります。
したがって、損得抜きで免税事業者を仕入れ先、購入先、外注先から除外することも考えられます。
そのようなときは、他の販売先を探す必要が出てくるかもしれません。
副業でインボイス発行事業者になるのは、事務負担が大きい気もします。
ただ、将来起業も視野に入れている場合には、インボイス発行事業者になる選択肢もあるかもしれません。
以下の記事をご参考にしてみてください。
3-2-3. 請求書の発行
先ほどの3年間+3年間の『経過措置』は、発行する請求書の要件を満たしていること、という条件があります。
具体的には、以下の項目を網羅したものを発行する必要があります。
② 販売した年月日
③ 販売または提供サービスの内容
④ 税率ごとに合計した税込価額
⑤ お客様の氏名又は名称
詳しくは以下をご参照ください。
① 書類の作成者の氏名又は名称
② 課税資産の譲渡等を行った年月日
③ 課税資産の譲渡等に係る資産又は役務の内容(課税資産の譲渡等が軽減対象資産の
譲渡等である場合には、資産の内容及び軽減対象資産の譲渡等である旨)
④ 税率ごとに合計した課税資産の譲渡等の税込価額
⑤ 書類の交付を受ける当該事業者の氏名又は名称
以下は、参考例として、インボイス(適格請求書)の記載例をご紹介します。
インボイス発行事業者でないと『登録番号』は持っていませんので、下記の図の登録番号を除いたものを請求書とすれば間違いありません。
詳細をこちらのページで確認できます。
販売先、委託元が、インボイス制度の経過措置が受けられるよう、きちんとした請求書を発行できる準備をしておきましょう。
4. 実務上の注意点
実際にインボイス制度が施行される2023年10月以降は、受注時、契約時に以下の点に気を付けると良いかと思います。
4-1. インボイス発行事業者ではない旨をあらかじめ伝える
インボイス発行事業者かどうかで、購入者・発注者は、消費税の処理が変わります。
従いまして、ご自身が『インボイス発行事業者ではない』旨は、受注したり契約した段階ではっきりと伝えておきましょう。
納品後に『話が違う』などはトラブルのもとになるので、『聞かれなくてもこちらから伝える』のが良いかと思います。
4-2. 受注金額は、税込み金額を明示して、値引きはしない旨を伝える
受注金額は、インボイス発行事業者でなくても税込み金額、全額請求することを伝えましょう。
従来から値引きをする場合も、あらかじめ税込み金額を明示して、それ以上の値引きはしないことを明確にしましょう。
税抜きなのか、税込みなのか、結局消費税分をもらえなかった、というようなことを絶対に避けるようにしましょう。
4-3. 過剰な値引きには説明をしてみる
先ほどの例のように、従来3,300円で受注していた仕事をインボイス制度適用後に3,000円に値下げ要請するのは、『過剰な値下げ要求』です。
きちんと説明をして、値下げをするにしても、できるだけ最小限に済むような対応を心がけましょう。
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