1. 第1回目の手術を受けるまでの妻の経過
簡単に検査のために2泊3日の大学病院への入院をしてからその後の経過をご報告します。
1-1. 検査入院からそのまま治療のための入院へ
この病気かどうかの確定的な診断を行うための精密検査の入院後、症状が予想したものよりも重いことからそのまま治療の為の入院に移行しました。
検査入院当日、病院の駐車場から病院の外来ロビーまでの間に激しい息切れで妻から「少し休ませて欲しい」と言われて初めて症状の進行を感じました。
確かにそれまでも階段の昇り降りの後で息切れをしていたのですが、まったくの平らな道でも5分も持たない、そんな状態になっていました。
1-2. あっという間に本格的な「病人」になってしまった妻
検査のための入院時から移動はすべて車いすでしか行うことができず、病気の進行の速さに驚きました。
酸素吸入器をすぐに装着し、それまで血液をサラサラにする薬の服用だけでしたが点滴に切り替わり血管を拡張する薬が投与されたのです。
その後、薬が効き呼吸が楽になったせいか自分で歩いても入院初日の様な激しい息切れがなくなり、少しほっとしました。
私がネットで調べたのと同じようにこの病気の診断に有効な検査をほぼ全て行ったようでしたが、診断はまさにこの病気だということでした。
1-3. 手術の決定と自宅待機
そしてすぐにその治療に入ること、近日中に手術を行うことを告げられました。
医師の方針で外科手術ではなく内科手術ということでした。
そして、経過も良好なことから手術日までの数日はいったん退院して自宅療養でも問題ないということで、
自宅で酸素吸入と薬の服用を続けることになりました。
酸素吸入器や薬のことなど治療の詳報は後日改めて記事にするとして、今回は経過と手術についてご報告したいと思います。
2. 手術前の執刀医からの詳細な説明
私と妻は手術前に執刀して下さる医師から詳しい症状と治療方針を画像を見ながら説明してもらいました。
2-1. 心不全が進行した深刻な状況
まず医師からは入院時には重症で深刻な状態だったことを聞かされました。
専門的な内容については後日の記事に譲りますが、簡単に言うと以下の様な状況ということでした。
- 1ヶ所、2ヶ所というレベルではななく、かなりの肺動脈の血管が詰まってしまっている
- その影響で心臓に大きな負担がかかっている
- 心臓の負担の度合いが大きく肺へ血液を送り出す心臓右側の肥大化(右心肥大)がかなり進行している
- 右心肥大が左心を圧迫して既に心臓の形すら変わってしまっている
私たちは実際に動いている妻の心臓の映像を見ながらその説明を受けました。
比較対象がないので正直なところそれが異常な状態かどうかは判別がつきませんでしたが、心不全がかなり進行している状況だということでした。
心不全とはこの様に『心臓が正常ではない状態』にあることを言います。
肺動脈圧は正常な人のほぼ倍の数値ということでした。
血圧と言えば通常は大動脈のことで成人で120㎜Hg程度です。
高血圧の人が、「血圧が150に上がっちゃって、医者から酒をとめられちゃったよぉ」なんて良く聞く話ですが、妻の場合はそれが240㎜Hgぐらいに上昇していることを想像してみて頂ければ、このときの妻の血管の状況が深刻であることがお分かり頂けるかと思います。
2-2. 医師から示された治療方針
治療方針も説明を受けました。
カテーテルによる内科的な手術により詰まった血管をその箇所ごとに開通させていくというものです。
心臓と肺をつなぐ肺動脈のあちこちで血栓が詰まってしまったために肺動脈がパンパンに張った状態で、そこに更に血液を送り込もうとするため右心が大きくなりその割を食って左心が押しつぶされたような格好です。
カテーテル手術により少しづつ血管の詰まりを取り除き血流が回復してくれば、少しずつ肺動脈圧は下がるのです。
2-3. 1回のカテーテル手術では完治は難しい
このカテーテル手術での実績や予後の状況などとともに「カテーテル手術では1度の手術では目標としている肺動脈圧には到達は難しい」、ということも教えて頂きました。
- この手術をして予後が順調な方々も平均して4回程度の手術が当たり前であること
- 外科手術と比較して患者への負担の軽い手術なので何度も繰り返して行える点が利点の方法
上記のことから、さほど心配することはないことを教えてもらい少し安心しました。
2-4. 心配な合併症
心配なのが合併症とのことでした。
大きくは2つあり、1つは手術時に血管を破ってしまうということです。
そしてもう1つは詰まった血管を一気に開通させてしまうことにより起こる肺水腫というものです。
肺を通る血管は酸素を取り込んで心臓に戻され体全体に酸素を多く含んだ『動脈血』を送り出すわけです。
でも今までパンパンに詰まっていた血液が血栓を取り除くなどして一気に流れ込むと毛細血管から血液が滲みだしてしまう場合があります。
肺に液体、この場合は血液ですが、が溜まってしまうと血液に酸素を取り込むことが困難になって、最悪の場合には自力で呼吸が難しい状態に陥ってしまうということでした。
2-5. 1回目の手術は特に注意が必要な肺水腫
特に肺水腫は1度目の手術時に最も注意が必要とのことでした。
1回目の手術の前が最も肺動脈が高く「出口を狭められたホース」の様になっているからです。
大きな圧がかかっているところにいきなり勢いよく流れ出すと大きな圧の血流により血管を破裂させてしまうことにより起こるということでした。
そのため肺動脈圧を降下させるためには血栓による詰まりを沢山排除して血流を良くするのが効果的であっても、合併症のことを考えると『ほどほどの効果』で終えるのが肝要だということでした。
2-6. 第1回目の手術の目的と方針
現在の妻の様に高い肺動脈圧の元では合併症に注意しながら慎重に行い、6割程度の開通で良しとする、そんな感じで第1回目の手術を進めたいということでした。
この合併症の備えとして術後は1日程度の期間、集中治療室(ICU)で経過観察をして万全の態勢で臨むということでした。
万一肺水腫を引き起こしても現在はその対処法に対しても経験値があるので心配ないことを具体的なその対処法と併せてご説明頂けました。
私も妻も安心して手術に臨める、そう思える説明でした。
病気の詳しい説明の記事を用意しています。
病気のメカニズムを詳しく知りたい方は以下の記事をご参照下さい。
3. 初めての手術の結果
先日、第1回目の手術を行い無事終わりました。
手術は術前の検査も含めて4時間ちょっとでした。
合併症の懸念がありましたが、経過は良好で特にその心配もなく元気に過ごしています。
3-1. 手術後に娘と見た患部の映像
術後、立ち会った私と娘が医師に呼ばれて手術室の中のモニターで、妻の血管の映像を動画で見せてくれました。
そして実際に手術でどの様に血管が開通したかも詳細に説明を受けることができました。
3-2. 良好な肺動脈圧
結果は2つの詰まった部分のうち1つはほぼ問題なく開通しもう1つは血栓が血管内壁にこびりついたようになっており、取り除くことができないまま手術を終えたということでした。
重要な指標である『肺動脈圧』は私が想像していた以上に良い数値でした。
この病気の経過の良否の判断基準として、『肺動脈圧』(肺動脈の血圧)は重要な指標です。
入院時に非常に高くなっていた、その『肺動脈圧』は手術前・手術後ともに良好に低下しており、とても安心しました。
私はその数値が医師の口から出た瞬間に涙が出そうになりました。
生まれて初めて感情よりも涙が先に反応することを経験しました。
正直なところ、その数値に対して私の気持ちは結構張りつめたものを持っていましたので…。
予後の生存率に非常に大きく影響する数値なのです。
もちろん健康な状態になったわけではないので楽観はできないのですが、慎重に進めるべき第1回目の手術としては素人ながら良い数値だったのではないかと思っています。
3-3. 術後の状況
その後、合併症の心配もなく経過は良好で現在は第2回目の手術に向け入院中です。
きっと2回目の手術もうまくいくものと信じております。
4. 妻の手術を受けるにあたって感じたこと
4-1. 丁寧な説明で安心した患者と家族
今回手術を終えて感じたことは、
医師の丁寧な説明は、患者やその家族をとても勇気づけてくれる、
ということでした。
忙しい時間をやりくりして捻出して下さった面談だったのですが、手術の変遷や他の治療方法の現状などもきちんと説明して頂き、何より精力的にこの病気の治療に取り組んできた様子まで伝わってきました。
今回は実施しませんでしたが、外科的な手術のその治療効果についても説明を受けました。
外科的手術とは、肺を開いて患部である肺動脈の血栓を取り除く等の手術や肺移植を指します。
術後の説明も非常にわかり易く経過が良くわかり継続して手術をしなければならない状況では本当にありがたく感じました。
4-2. 患者やその家族の心構えと医師の関係
前回の脳静脈の血栓の治療の時にも感じましたが、『患者が医師から選択を求められる』ケースがあります。
私は完全に医師にお任せではなく患者側の意思をきちんと伝えていくことは重要だと考えています。
できる限りそうしたい、そう思っています。
もし現在の治療に行き詰った場合には他の治療への転換などの意思決定等も患者がすべきことだと考えています。
その時に現在の治療についてできるだけ詳しく知っておきたいと思っています。
もちろん、そんな決定をしなくても済むように順調に治療が進んでいってくれることを願っていますが、もしその必要があった場合にはきちんと伝えらえるようにしなければいけないと考えています。
その意味でも今回の様にその都度、患者側でも理解できるような平易な言葉と画像や映像を使って説明してもらえることは大変ありがたいと感じました。
そして医療に真摯に携わっている姿勢に触れ、尊敬の念すら抱きました。
5. 最後に
先ほどもお伝えした通り楽観はできない状況ではありますが、日に日に状況が好転していく妻の姿を見ていて、少しご報告する気持ちが湧いてきましたので本日は記事を更新することとしました。
ご心配下さっている方、本当にありがとうございます。
きっとそのお気持ちも届いているのだと思います。
m(__)m
なんとなく深刻な感じの文章が続きましたが、妻はテレビを観たり本を読んだりゆったりと元気に過ごしています。
もし同じ病気で懸念されている方がお読みになっていましたら、少しでも勇気づけられたなら嬉しいです。
CTEPHのことを詳しく知りたい方は以下の記事をご覧下さい