1・2回、3・4回と「2回を1セット」とするバルーンカテーテル手術。
今回、4回目の手術を終えて妻の病気の経過報告をしたいと思います。
1. 「慢性血栓塞栓性肺高血圧症:CTEPH(シーテフ)」の進行について
妻の罹った病気・「慢性血栓塞栓性肺高血圧症:CTEPH(シーテフ)」の進行について説明をしたいと思います。
病気の詳細については以下の記事に詳しくお伝えしていますので、ご参考にして下さい。
1-1. 慢性血栓塞栓性肺高血圧症の発生原因と病気の進行
CTEPHの病気の発生から重症化していく過程を以下に説明します。
1-1-1. 重症化の過程
肺は全身から心臓に戻ってきた「酸素濃度が減少した血液」を再度全身に酸素が供給できるように「血液に酸素を送り込む」ことを役目としています。
全身に必要な酸素を供給するためには、心臓から出る血液の量を一定以上に保つ必要があります。
肺高血圧の状態では、血液の流れが悪くならないように、狭い血管を無理に血液が流れるように心臓が努力することで、肺動脈圧が上昇します。
肺動脈圧の上昇が持続すると、肺動脈の壁自体に高い圧がかかり続けることで、肺動脈が傷み、さらに肺動脈が狭くなったり、硬くなったりすることで、肺動脈圧がさらに高くなるという悪循環に陥ります。
また心臓(特に右心室)に負担がかかることで、次第に心臓の働きが悪くなり、右心不全(心臓の右心房を含めた心臓の右側の不全状態)を引き起こします。
下の図はこの血栓発生による血流の悪化から、右心不全に至るメカニズムを表しています。
心臓から肺に至る「太い血管」の流れの悪化が原因ではなく、その先の肺の中にある細い血管の中の血液の流れの悪化が肺動脈の「高血圧化」を引き起こしていることがわかります。
整理すると以下の様になります。
- 血栓の発生
体のどこかの血管で血栓ができる - 血栓の浮遊と肺への到達
血栓が血管を通して血液で運ばれて肺の血管に到達する - 肺小動脈の塞栓
血栓が留まって肺の血管が詰まる - 肺小動脈の血流悪化
心臓から肺へ血液が流れにくくなる - 肺動脈の高血圧化
出口を絞ったホースに水を流した時のように血管がパンパンになる - 血中酸素濃度低下
肺に十分な血液が送り込まれず、血液に十分な酸素を供給することができなくなる - 酸素濃度低下による支障
少しの動作で息切れがするなど生活に支障をきたす - 右心の過大な活動
血液への酸素供給を維持するため流れにくい血管にポンプ役の心臓が頑張って血液を流そうとする - 更なる肺動脈の高血圧化
流れにくい肺への血管へ従来のように沢山の血液を流そうと水道の蛇口をひねった時のように更に血管がパンパンなる - 右心肥大
通常以上の力を発揮するため肺へ送り出すポンプ役の右心室が大きくなっていく - 心筋の収縮力低下
元々心臓は圧力が高い状態に耐えられるようにできてないため負荷がかかった状態が続くと心筋の収縮力が低下していく - 右心不全
拡がった右心室は戻らなくなり右心房を含む右心系の機能が障害され、全身の血液の循環に障害が発生する - 肥大化した右心による左心の圧迫
肥大した右心により左心が圧迫され全身へ血液を送る左心の機能にも障害を発生させる
1-1-2. 肺高血圧症の進行と具体的な症状
-
肺高血圧症の初期症状では、
- 動いたときに息切れがする
- 疲れやすい
- 胸痛や動悸がする
等の症状が現れ、特に息切れをきっかけにして病院を訪れる方が多いようです。
-
肺高血圧症の初期症状が進行した状態になると、
- 失神発作を起こす
- 声がかすれる
- 咳が止まらなくなる
- 血痰が出る
等の症状が現れることがあります。
-
右心室が拡張して働きが悪くなると全身のうっ血が起こり結果として、
- 食欲不振
- 顔面や下肢のむくみが生じる
- 肝臓が大きくなり右上腹部が痛む
- 黄疸なる
等の症状が現れます。
-
肺高血圧が高度になり右心不全にいたると、
- 息切れは極軽い労作でも起きるほどに悪化
- 立ち上がるだけでも気を失いかける
- お腹に水がたまる
- チアノーゼ(低酸素血症では皮膚や粘膜が青みを帯びてくること)を起こす
等の症状が現れます。
肺動脈や右心室に高い圧力がかかり、また拡張することから心臓の弁がきちんと閉まらなくなり逆流を生じるようになります。このような状態は血液の流れをさらに悪くし、病態を悪化させることになります。
詳しくは以下のサイトにて確認できます。
1-2. 病気進行についての補足事項
1-2-1. 肺高血圧
肺の血管の血流が悪くなった状態は「水撒きホース」に例えるとわかりやすいです。
水撒きする時、ホースの口をつぶして水を飛ばします。
この様にすると勢いよく水は飛びますが、同じ力で水を押し出すとホースはパンパンになります。
これが圧力が高くなっている状態です。
1-2-2. 肺高血圧状態での弊害
肺高血圧になると心臓への負荷が高まることによる悪影響のほかにも、血管の内側を損傷するなどの弊害もあります。
また十分な酸素を供給できないことにより、軽い動作でも息切れするだけでなく、疲れやすい、胸痛や動悸がするなどの症状があらわれます。
他にも失神発作を起こしたり、声がかすれたり、咳が止まらなくなったり、血痰が出たりします。
1-2-3. 右心不全の弊害
右心室が拡張して働きが悪くなると、全身のうっ血が起こります。
その結果、食欲がなくなったり、顔面や下肢のむくみが生じたり、肝臓が大きくなり右上腹部が痛むなどの症状があらわれます。
黄疸になることもあります。
更に進行して右心不全になると立ち上がるだけでも気を失いかけたり、お腹に水がたまったり、チアノーゼ(低酸素血症では皮膚や粘膜が青みを帯びてくること)を起こしたりします。
肺動脈や右心室に高い圧力がかかり、また拡張することから心臓の弁がきちんと閉まらなくなり逆流を生じるようになります。
このような状態は血液の流れをさらに悪くし、病態を悪化させることになります。
2. 妻の治療と回復状況について
妻の病気の症状と治療による推移を簡単にご説明したいと思います。
2-1. 妻の現在の治療
妻の現在の治療は以下の通りです。
- 薬の服用
- 血液をサラサラにする薬(抗凝固療法)
血管に詰まってしまう血栓の予防 - 血管を広げる薬(肺血管拡張薬)
詰まった血管が多く肺動脈全体の血流が悪くなっているため血管を広げて血流を良くする - 利尿剤
うっ血やむくみの緩和
- 血液をサラサラにする薬(抗凝固療法)
- 在宅酸素療法
不足している肺への酸素の供給を補完 - バルーンカテーテル手術
既にできている血栓の除去
2-2. 妻の病気の進行と治療による回復状況
- 2013年3月
自覚症状/初診
この時に「CTEPHの疑いあり」の診断をされる - 2013年4月~9月(予定)
CTEPH確定のため6ヶ月の経過観察
「血液サラサラ薬により血流を回復させ、小康状態を保つことができたので定期的な精密検査をしながら経過観察とした」 - 2013年5月
大学病院での精密検査を要請
「経過観察中の病気進行を心配して主治医に大学病院での確定検査実施を要請・許可される」 - 2013年7月
大学病院での確定検査の実施
「2泊3日の精密検査でCTEPHの重症患者と診断される」
「(数値的状況)平均肺動脈圧:49㎜Hg/BNP値:1,000」
「(自覚症状)ほぼ自力で立って歩くことができない」
「(画像診断)広範囲にわたる肺血栓塞栓状態/進行した右心肥大」 - 2013年8月
検査終了後そのまま治療のため入院
「(治療)冒頭に記載した投薬(点滴)」 - 2013年8月
経過良好のため在宅療養開始
「治療:投薬のほかに在宅酸素療法(HOT)開始」 - 2013年8月
第1回・第2回バルーンカテーテル手術
「6本の血管が開通するも広範囲にわたる血栓塞栓のため全ての塞栓の改善に至らず」
「(数値的状況)術後平均肺動脈圧:32mmHg/術前BNP値:231/術後BNP値:51」
「回復状況良好のため、在宅での療養へ移行」
「(治療)投薬・在宅酸素療法」 - 2013年8月~
在宅療養へ移行
「回復状況良好のため、在宅での療養へ移行」
「(治療)投薬・在宅酸素療法」 - 2013年9月
定期健診
「(数値的状況)BNP値:19」 - 2013年10月
定期健診
「(数値的状況)BNP値:4」
「回復状況良好のため、水分制限解除」 - 2013年12月
肺血流シンチ検査
「(診断)良好な回復状況」 - 2014年1月
第3回・第4回バルーンカテーテル手術予定が延期へ
「優先すべき患者により延期へ」 - 2014年6月 ←今ココ
第3回・第4回バルーンカテーテル手術
2-3. 入院時の肺動脈圧
正常な人の平均肺動脈圧は10~15㎜Hg程度と言われているそうです。
そして、この病気は平均肺動脈圧が25㎜Hg以上の状態であるとされています。
妻が最初に入院した時の肺動脈の平均血圧は、49㎜Hgだったということです。
正常値の約5倍ほどの血圧です。
まさに血管がパンパンな状態であったろうと思います。
心臓の形だって変ってしまうはずです。
ちなみに一般的に『血圧』という場合には大動脈内の圧力のことを指し、収縮時で130㎜Hg未満、拡張時で85㎜Hg未満程度が正常値と言われていますね。
仮に一般の血圧に置き換えて妻の状態を考えてみますと、平均を100㎜Hgとすると妻の肺動脈の状態は一般の血圧で500㎜Hgになってしまっている状態でした。
異常度が少し想像できるかもしれません。
(もちろん血管の長さなどが異なりますので、単純に二つを比例して考えるのは無意味ですが…)
とにかく正常が10~15㎜Hg、難病指定の条件が25㎜Hgという数値に対して、入院時の妻の数値は49㎜Hgという状態でした。
医師からはこの状態は『2年間生存できる確率が20%以下』という数値だと説明を受けました。
この数値(肺動脈圧)が上がれば上がるほど生存期間が縮まり、生存確率が下がる、それがこの病気の現在の一般的な見解のようです。
2-4. 治療後の経過
最初の2回の手術でこの数値が30㎜Hg程度まで下がりました。
前回3回目の手術の直前に測定した数値は27㎜Hgでした。
「あと2㎜Hg下がればこの病気のラインより低い数値になる」、そんなところまで回復しました。
そして前回受けた第3回目の手術後1週間経過して測定した数値、つまりは今回の第4回目の手術の直前に測定した結果は21㎜Hgだと教えて頂きました。
20~25㎜Hgは臨界状態のようで、正常値まではいかないが難病該当まではいかない程度の要観察状態、そんなところのようです。
初めて入院したのが昨年2013年の7月です。
それから約1年でここまで良くなりました。
執刀して下さった医師のお話では術後1週間程度で手術した結果が数値に反映され始めるとのことでしたので、更に数値が下がる希望も持てる、そんな状況です。
3. バルーンカテーテル手術の特長
3-1. 外科手術と比較して負担の軽い内科的手術
『バルーンカテーテル手術』は内科的な手術法です。
従来の主流(というか唯一の手術法だった)外科手術と比較して、この手術の良いところは『患者への肉体的な負担が軽いこと』です。
そのため『比較的短期間に複数回の手術が可能』ということです。
3-2. 2回で1セットのバルーンカテーテル手術
今回、妻は1週間の間をおいて、『第3・4回目』の手術を受けました。
肺の全体にわたる血管が血栓により詰まってしまい、とても1回の手術では治癒するまでの効果が得られないことが明らかであり、複数回の手術を受けることは最初からの治療方針でした。
4. 患者から見たバルーンカテーテル手術
妻からの聞きかじりで私が直接味わったわけでは無い部分がほとんどですが、できるだけ本人から聞いたままをお伝えしたいと思います。
4-1. 手術時間
大体3時間程度です。
実際に手術室に入ってから終了と言われた時までですので、実際に手術時間以外に準備等も含まれるかもしれません。
また第1回目の手術時はそれ以降よりも事前検査を入念されたと聞いております。
そのため治療そのものに割いた時間はもっと短いかもしれません。
全体として3時間から3時間半程度の手術でした。
4-2. カテーテルの挿入
カテーテルは第1回目、第2回目の時は太ももの付け根から挿入されました。
今回の第3回目と第4回目は首から挿入されました。
太ももから挿入する方が血管が太く挿入しやすく患者の痛みが少なく手術もしやすいことから、第3回目も太ももからの挿入をチャレンジしましたが、なかなか挿入に適した血管を見つけられず血栓の除去作業の時間が削られることを考慮して血管の探しやすい首から挿入したのです。
顎が邪魔になるため医師にとってカテーテルの操作がし難いというデメリットがあるものの太ももの血管を探せない時には比較的よく使われる挿入部位だそうです。
首から挿入した時は手術中は顔面に布を被せられるため視界が遮られていたそうです。
4-3. 麻酔
麻酔は全身麻酔ではなく局部麻酔です。
従って意識ははっきりしていて目も耳も普通の状態です。
手術中の会話は全て聞こえたそうです。
太ももからカテーテルを挿入した時には周りもある程度見えたそうです。
ときどき画像を撮影するために深呼吸したりする指示があるそうです。
4-4. 痛み
麻酔をしていますが、全く痛みを感じないわけではないそうです。
太ももと比較すると若干首の方が痛かったそうです。
カテーテルの出し入れの時に皮膚が吊られる感じで刺激されたり、医師に挿入部分を押さえつけられた時の痛みが太ももよりも痛いようです。
ですが、出産を経験している妻は私と比べ全体的に痛みへの耐性が強いと想像しています。
私ならもしかしたら騒ぐレベルなのかもしれません。
4-5. 造影剤
手術中は血管の状態をモニターするため造影剤が注入されます。
血管を「熱いものが通る」感覚になるそうです。
4-6. 術後
術後は首から挿入の場合は挿入部分を3時間程度動かしてはいけなかったそうです。
振り向いたりするときは体ごと振り向く必要があります。
しかしながら太ももの場合は、5時間程度下半身を動かすことができません。
下半身全体を5時間動かせないのは結構つらいとのことでした。
術後は首からの挿入の方が楽だったようです。
4-7. 集中治療室(ICU)
以前の記事でお伝えした通り、バルーンカテーテル手術で最も気を付けたい合併症が『肺水腫』です。
パンパンに張った高血圧の血管に一気に血流が回復することにより血管を破り肺に血液が漏れ出してしまうと、最悪の場合呼吸困難に陥ると説明を受けました。
複数回行うことにより徐々に肺動脈圧が低下してそのリスクが軽減されていきます。
そのため、この手術を行う場合にはかなり慎重に進めます。
また術後も万一に備えて集中治療室で24時間体制で異常が発生しないかをモニターしました。
妻の場合は第1回目と第2回目の手術の時に術後に集中治療室(ICU)で一晩過ごしました。
幸い特に緊急事態は発生することもありませんでした。
そして肺動脈圧が危険水域を脱していた第3回目と第4回目の術後はICUに入ることなく、術後すぐに一般病棟で過ごすことになり、食事も術後1時間半後には摂っていました。
非常に微細な血管にカテーテルを通して行う手術で細心の注意を払いながらの手術であるのでしょうが、胸を開いて行う外科手術と比較すると患者への体力的負担のみならず、患者本人、家族、双方ともに精神的負担は小さい、その様に感じました。
術後はそれでも疲れるようでぐったりというほどではありませんが、少し眠らせてあげたい、そんな感じでした。
5. 妻の今後の治療方針
妻の今後の治療方針は以下の様な感じです。
5-1. 投薬
投薬の方針は今までと基本的には変わりません。
『血液をサラサラする薬』『肺の血管を拡張する薬』『利尿剤』により高血圧症を治療していきます。
5-2. 在宅酸素療法
今回、手術を行った結果、肺動脈圧は非常に良好な数値を示しており、医師からは安静時の酸素吸入は自覚症状が特になければ不要という朗報を頂きました。
但し、心臓の負担は投薬と酸素吸入によって補われている側面があるので急に外すことはできません。
6ヶ月ほど様子を見るということになっています。
6. 次回の検査
次回は6ヶ月後に2泊3日の検査入院を予定しています。
この検査では実際に運動を行った場合にどの様な心臓や肺静脈に変化があるかなどを細かく調べるそうです。
それで問題無ければ、もしかしたら在宅酸素はしなくても良くなるかもしれません。
また、薬についても投薬の方針が変わるかもしれません。
但し、『血液をサラサラにする薬』は一生飲み続けなくてはならないようです。
血栓の発生原因を特定できていないので、血栓の発生予防、できた時の症状の緩和として最低限必要な薬のようです。
6ヶ月後は発症から1年9ヶ月ほど経過していることになりますが、その時にはきっと動画で妻に伝えたようにみんなで旅行に行けるまで回復できるのではないかと思います。
7. 最後に
どうか、同じ病気になってしまってびっくりしている患者さん、ご家族の方がいらっしゃいましたら、こんな重症な状態で治療を始めても比較的短期間でここまで回復することができますので希望を持って前向きに、そして肩の力を抜いて、でも、何事にも慎重かつ確認を怠らないようにしながら病気に向き合って頂けたらと思います。
最後にこのブログを通して妻に励ましのお言葉を頂いた皆様、感謝申し上げます。
妻も常に(入院中も)このブログを見ておりまして、とても励まされたと感謝しております。
また今回動画製作が縁で妻に励ましのお言葉を頂きました歌手のはなP∞さん、そして妻の代わりに家事をしてくれた家族…。
病院の方々、私を繁忙期で快く休ませてくれた会社の人たち…。
こんな高度な治療を受けさせてくれた国の制度。
私も妻も沢山の方々に感謝しなければならないと思っています。
本当にありがとうございました。<(_ _)>
CTEPHのことを詳しく知りたい方は以下の記事をご覧下さい